わたしたちからみたエムズコーポレーションさん
カフェとフリーアドレス—「見せる」ためにつくられた新本社
3階に設けられたカフェスペース。カウンターやテーブル席が並び、社員の昼食や打ち合わせに使われています。
株式会社エムズコーポレーションさんは、大阪府四條畷市に本社を構える開発試作の専門メーカーです。開発メーカーの依頼を受け、半年後や一年後に世に出る新製品の「試作モデル」をつくっています。分野は自動車部品、バイク、自転車、家電、釣具、雑貨と幅広く、材料も木材や樹脂から金属までほぼ制限なし。1996年に田坪勝社長が一人で立ち上げた会社は、いまでは大阪・千葉県船橋市・静岡県浜松市の3拠点に工場を持ち、従業員45名になりました。
取材は本社3階のカフェスペースから始まりました。試作会社を訪ねたつもりが、通されたのはコーヒーの香りが漂うカフェ。テーブルにはモニターとカメラがあり、そのまま商談やオンライン会議もできます。月に一度の映画上映会や、近隣のシェフを招くランチイベントも社員に好評だそうです。
2階のオフィスは完全なフリーアドレス制。営業や事務のスタッフは毎日好きな席を選び、終業時には荷物をロッカーに片付けます。「みんな見事に毎日違うところに座ってますよ」と社長。一人で集中したい人は窓際へ、相談したい人は共有テーブルへ。家具の一つひとつに取締役のこだわりが込められています。
この新本社へは2022年3月に移転しました。社員の小巻さんによれば、会社が大きく変わり始めたのもこの移転からだといいます。「会社をオープンにして、技術や社風を外に見せていこう」という方針のもと、オープンファクトリーへの出展や工場見学、ワークショップが一気に増えました。カフェもフリーアドレスも、その「見せる」姿勢の一部でした。
切削・光造形・注型—半年後に世に出る製品をカタチにする
5軸マシニングセンタ。前後・左右・上下の動きに加え、傾きと回転の動きを組み合わせて複雑な形状を削り出します。
1階が工場です。白を基調とした検査スペースには三次元測定機や3Dスキャナーが並び、現物をスキャンしてそのまま3Dプリンターで出力することもできます。3Dプリンターは3種類。テーブルを回しながら材料を垂らしてUVで固めるタイプ、液状の樹脂にレーザーを当てて一層ずつ硬化させる「光造形」、紐状の樹脂を積み上げる「FDM」。精度を優先するなら光造形、量産品に近い材料で試すならFDMと、用途に応じて使い分けています。
隣で行われているのが真空注型です。マスターモデルをシリコンゴムで型取りし、樹脂を流し込んで同じ形を複製する技術で、複雑な部品を少量だけ早く安くつくりたいときに向いています。真空装置の中で流し込むので気泡が入りません。装置の中に真っ黒なサンタクロースのサンプルがあり、案内してくれた小巻さんと「ブラックサンタですね」と笑い合いました。工場見学ではこの注型を体験できるそうです。
主軸は切削加工です。マシニングセンタの中で高速回転する刃物が金属や樹脂を削り出し、傾きと回転の動きが加わる5軸加工機も稼働していました。形によっては固定用の治具をつくるところから始める「加工のための加工」も多く、加工プログラムは現場のスタッフが自ら組んでいます。「だから、うちの現場の人間はみんな頭がいいんですよ」と社長は誇らしげです。
中でも特徴的なのがマグネシウムです。スマートフォンやノートパソコンの内部に使われる軽い金属ですが、切削中に発火しやすく、扱える会社は多くありません。エムズコーポレーションさんでは資格を持ったスタッフが機械の前に付き添い、あえて自社で引き受けています。
社長室に並ぶ、社員からのサプライズ
社長室の棚。社員から贈られた還暦祝いの品と、エムズコーポレーションさんのオリジナルキャラクター「ミライマン」のフィギュアが並びます。
2階の窓際には、社員が3Dプリンターでつくった作品が並んでいました。試作で培った設計技術は遊び心のあるものづくりにも生きていて、地元のイベントや大阪・関西万博のワークショップでは、メダルづくりや注型体験を子どもたちに届けてきました。
還暦祝いに社員から贈られたプレゼント。切削で削り出した愛車のミニチュアや真っ赤な還暦の名刺、記念の写真立てが並びます。
社長室に飾られていたのは、社員からの「サプライズ」の品々です。今年7月、還暦を迎えた社長のために、社員たちが密かにパーティーを準備しました。「今日の昼は部屋から出ないで、防犯カメラのモニターも見ないでくださいね」と念を押され、時間になって上がってみると、社長のご家族まで集まっていたそうです。プレゼントは、社員がレーザー加工でつくった社長の好きな漫画のキャラクター、切削で削り出した愛車のミニチュア、真っ赤な還暦の名刺。「あの時は本当に泣きましたわ」。
企業ポリシーは「3つのM」。お客様との出会い(Meet)を大切にし、自社の価値(Merit)を実感してもらい、なくてはならない存在(Must)であり続けること。社員が社長のために仕込んだサプライズは、「人を大事にする」姿勢が返ってきた形に見えました。
「試作会社」と聞いて想像していたのは、技術者が黙々と図面に向かう姿でした。実際のエムズコーポレーションさんには、カフェがあり、席が毎日変わるオフィスがあり、社長室には社員が削り出した愛車のミニチュアが飾られていました。「アイデアをカタチにする」という言葉は、自分たちの働く環境にも向けられていました。
その一方で、マグネシウムのような難しい加工にも真剣に向き合っている。遊び心と真剣さが、自然に同居している会社でした。
社長インタビュー
開発メーカー様からご依頼をいただいて、半年後や一年後に世に出る商品の「試作モデル」をつくるのが私たちの仕事です。自動車部品、バイク、自転車、家電、釣具や雑貨まで。開発から設計、製造まで一貫して請け負っています。材料も「削れないものはないから何でも言ってほしい」というスタンスです。
その象徴がマグネシウムですね。発火しやすいので扱える会社は少ないけれど、需要はすごく多い。だからうちはあえて自社でやっています。加工中は必ず担当者が機械の前で見守っています。
会社を立ち上げたのが30年と9カ月前。16歳からずっとこの業界一筋です。お客様の「これも削れないか?」に応えていくうちに、機械と技術が増えて今の姿になりました。
創業した時は、駐車場の一角を借りて、シャッターに社名を書いた紙を貼って始めました。近くの大手電機メーカーに仕事をいただきたくて、毎日自転車にクーラーボックスを積んで、守衛さんに冷たいお茶を配り続けたんです。そのうち「入ってええぞ」と言ってもらえて、中でカタログを配って回った。50人に声をかけて、名刺交換してくれたのが3人、仕事の話を聞いてくれたのが1人。僕の経営者人生は、あのクーラーボックスを積んだ自転車から始まっています。
そこからは挑戦の連続です。最初のマシニングは樹脂しか削れない機械でしたが、あらゆる仕事が欲しくて、難しい図面も「やります」と持ち帰った。メンバーと一緒に治具をつくり、加工方法を試行錯誤して形にしていく。あの「NOと言わないチャレンジ」の積み重ねが、うちの技術力のベースです。
コロナ禍の時も「立ち止まったら負けやぞ」と言って、組み立てやすい安価なパーテーションを自社で開発しました。「1,000セット売るぞ」と目標を掲げて、全員で動いて1,500セット以上。うちのメンバーは本当に優秀で、気持ちが熱い。社員は本物の「ファミリー」だと思っています。
依頼が来たら、必ず営業がお客様のところへ足を運ぶことです。メールで図面を受け取って、見積もりを返して、削って送る。それが今の当たり前かもしれませんが、うちは必ず対面で話をします。「どういう用途ですか?」「ここまで細かく削る必要はありますか?」「この用途なら安い材料で十分ですよ」。材料から加工方法まで踏み込んで提案する。僕はこれを「鬼の提案」と呼んでいます。
本気で提案すると、「エムズさんはそこまで考えてくれるのか」と別の仕事も任せてもらえるようになるんです。今日、営業が一人もいなかったでしょう? 全員お客様のところへ出向いています。
営業が戻ったら、聞いてきた用途を必ず現場に伝えて打ち合わせをします。うちは営業と現場が常に一体。営業には「とにかく現場に入れ」と言っています。職人が削り出した斜めの穴を見て「これどうやって開けたんやろ」と興味を持ち、その値打ちをお客様に語れてこそ一流の営業です。
企業ポリシーの「3つのM」です。まず「Meet」、出会いがすべての原点。お客様はもちろん、仕入先さんも、外注先さんも、社員の家族も、清掃スタッフの方も、「エムズに関わるすべての人が大事」なんです。清掃スタッフの誕生日にもお花を渡してお祝いしています。
次の「Merit」は、うちに頼んでよかったと感じてもらうこと。材料や加工方法まで踏み込んで提案し、お客様が求める以上のものをお返しする。そして「Must」は、「エムズさんがいなくては困る」と言ってもらえる存在になることです。価格だけではなく、提案と顔の見える関係で選ばれる会社でありたいですね。
「仕事だけが人生じゃないやろ」と日頃から言っています。有給は理由を一切聞かないルールで、申請したらしっかり休む。土日は休みで、残業もほぼありません。定時になったらみんな一斉に帰ります。もちろん僕も。駅から通勤している若い子は、帰りが重なれば僕が車で駅まで送ります。車内でいろんな話ができますからね。
仕事が充実していないと、プライベートも心から楽しめない。だから社員の「顔色」は毎日よく見ています。東京や静岡のメンバーにもチャットや電話をよく入れます。声を聞けば「なんかあったな」と分かりますから。プライベートの悩みも僕が率先して聞きます。社員みんなが心身ともに健康でいること。そこは社長の一番の仕事だと思っています。
一番大事なのは、分からないことがあった時に「誰にでもすぐ聞ける空気」です。フリーアドレスにしたのも部署の垣根をなくすため。お客様や外注先とのやり取りもシステムで全員に見える化していて、「担当者しか分からない」ということがありません。
それから、社員と順番に4、5人でご飯を食べに行っています。会社の外だと普段言えない本音も出るでしょう? ただ、食事会が苦手な子もいるので、そういう子には無理に誘わず、好きそうなお菓子を買ってきたり、ラーメン好きな子にはラーメンのセットをあげたり。この規模だからこそですが、社員の好きなことや嫌いなことは、たぶん全部知っていますよ。
私たちは「これから世に出る製品」の試作をつくっています。自転車のパーツ、バイクの部品、家電量販店に並ぶ炊飯器。半年後に商品が店頭に並んだ時、「これの最初の一個は俺らがつくったんや」と誇らしくなる。それが一番のやりがいです。
もう一つは「とにかく褒めること」。うちの職人たちは精巧な仕事で、タイトな納期にも応えてくれる。本当に優秀やなと思っています。難しい加工が成功したら現場で直接褒めますし、お客様が感動してくれた話は必ず現場に伝えます。どれだけデジタルが進んでも、人が一番やる気になるのは「感謝と称賛」だと思うんです。
機械の点検や、営業車の日常点検は徹底しています。特に気をつけているのは、職人が自分で加工プログラムを組む点です。機械はプログラム通りに動くので、確認は念入りに。人の手の形をしたゴムのダミーをつくって、機械のどこに手を入れると危ないかを検証したりもしています。
営業は全員、警察主催の無事故無違反キャンペーンにも参加していて、2024年は表彰状をいただきました。
営業の若い子には「とにかく現場に入り浸れ」と言っています。職人に質問して加工を学んでいる人ほど、提案力が上がります。成長した分は給料で還元しますし、外部の研修やセミナーも希望があれば会社が費用を出しています。
現場の職人は、設計からプログラム、加工までを自分たちで完結させます。最初からできたわけではなく、難しい案件が来るたびに一緒に「どうやったら削れるか」を考えて、技術をものにしてきた。できることを一つずつ増やしてきたことが、エムズの30年の歴史そのものです。
頑張った人が正しく報われることです。技術が上がった職人にはそれに見合う給料を、成果を上げた営業にはそれに応じた報酬を。気持ちだけでなく、お金でもきちんと報いる。どんな時期も、ボーナスと給料は途切れさせずに払い続けてきました。長く勤めてくれているメンバーが多いのは本当にありがたいですね。
目指す姿は創業の頃から変わっていません。もし「試作」という業界がなくなる日が来たとしても、「世の中で最後の一枚の図面は、絶対にエムズが取る」。それぐらいの執念でやっています。だから今でも自分で新規営業に行くんです。45人の大事なメンバーとその家族を背負っていますから。原動力は「使命感」ですね。
僕も最初からやりたいことがあってこの業界に入ったわけじゃありません。16歳で「将来は会社をやりたい」と話したら、近所の方が「手に職をつけたらええ」と紹介してくれたのがこの業界でした。「母をシンデレラにしたい」、その思いだけで頑張れた。現場を覚えたら営業を志願して、東京で1年に600社を回りました。
だから採用でも、面接の短い時間だけでその人を判断しません。緊張して思うように話せない子でも、働きたいと言うなら「よし、おいで」と言います。最近も緊張でガチガチだった子が「営業をやりたい」と来て、「頑張ってみるか?」と聞いたら「頑張ります」と。その彼がいま、営業売上ナンバーワンです。人は環境と任せ方次第で大きく伸びる。だから面白いんですよね。
田坪社長のお話には、社員一人ひとりのエピソードがたくさん出てきました。駅まで車で送る話、ラーメンセットの話、清掃スタッフの誕生日の話。そのすべてが「社員をよく見ている」という一点につながっていました。
そして「最後の一枚の図面は、絶対にうちが取る」という言葉。駐車場の一角から始まった会社が3拠点に工場を構えるまでになった理由は、この一言に詰まっていました。
従業員インタビュー
朝9時始業で、10分ほど全体朝礼があります。昼休憩は12時から13時、終業は18時です。朝はメールチェックと見積もりなどの事務作業を片付けて、午後はイベントの打ち合わせや企画の準備に時間を使います。僕の仕事は「これが毎日の決まった業務」というものがあまりなく、会社に今何が必要かを考えながら、いろいろな仕事を同時に進めています。
すごく良い雰囲気です。何か新しいことを「やってみたい」と言えば、「ええやん、やってみよう」と背中を押してくれる。社長自身が話しかけやすい雰囲気をつくってくれているので、会社全体の風通しがいいんです。性別や年齢、部署に関係なく、みんな仲良くやっています。
「無駄な残業はしない」という方針で、だいたいの社員は19時ごろまでには帰っています。
休日は土日休みの完全週休2日制です。どうしても休日に出勤する場合は、先に代休の日を決めてからでないと出勤できないルール。「働いた分、必ず休む」という会社の考えです。年間休日は124〜125日くらい。有給も段取りさえつければいつでも取れます。
メリハリをつけて、休む時はしっかり休むのが僕のルールです。メールは事務スタッフや上司にも共有されているので、休んでいる間はお互いにフォローし合えます。
子どもがまだ小さいので、今年の夏休みは家で「休日のお父さん」をしていました。夏休みの後には、社長が会員権を持つリゾートホテルに現場の社員と一緒に連れて行っていただきました。忘年会や新年会も全社でやっています。
僕たちが扱っているのは、まだ世の中にない製品です。試作に関わった製品が半年後や一年後に店頭に並んでいるのを見かけた時、「この形の一番最初の一個は、うちの工場で削ったんやぞ」と自慢したくなる。休日に家電量販店に行っても、「この部分、うちが試作でカタチにしたところやな」とついニヤニヤしてしまいます。
「やりたい」と手を挙げたことが本当に実現できるところです。理由と目的さえ説明できれば、基本的にGOサインが出ます。自分から動ける人にとっては、すごく楽しい職場だと思います。
たとえば服装。以前は事務も営業もスーツにネクタイでしたが、「今の時代、そこまでしなくても」と提案したら、「確かにそうやな」とすぐに変わりました。
もう少し大きな話だと、今年立ち上げた学生向けインターンシップです。オープンファクトリーと大学の学園祭の出店が重なって、大学の先生に学生さんの協力をお願いしたのがきっかけでした。企画から製作まで学生さんと一緒に進める中で、「インターンがあれば企業に興味が持てる」という声をもらい、始めることにしました。SNSの運用や動画の撮影を任せる予定です。
一貫して「とりあえずやってみる」です。実際に動かしてみないと分からないことは必ずあります。立ち止まって悩むより、一歩踏み出してやりながら直していく方が、早く答えにたどり着けると思っています。
目標は、この会社を「50年、100年続く組織にする」こと。全社員でミッション・ビジョン・バリューを考えた時に、僕が掲げた目標です。いまは創業社長の田坪と、創業当時からの取締役が屋台骨を支える「第1世代」。15年、20年先の世代交代を見すえて、僕たち第2世代が今何を準備すべきかを考えています。オープンファクトリーや外のイベントに出ていくのも、会社を知ってもらい、人とのつながりをつくるためです。
僕の経験では、仕事選びで「最初から向いているかどうか」はそれほど大事じゃないと思っています。「自分の適性は何だろう」と狭い枠の中で考えて止まってしまうより、「とりあえず飛び込んでみる」「少しでも興味があることをやってみる」身軽さの方が大切です。
僕も大学生の時に自己分析をして、「できることは営業くらいかな」と不動産の営業になりました。やっていくうちに「もっといろいろなことに挑戦したい」と思って転職活動を始め、出会ったのがエムズの「管理部」でした。経験がないからと諦めていたら、僕は今ここにいません。
だから「できる・できない」は後回しにして、「本心からやってみたいこと」を基準に選んでほしい。スキルは目の前の仕事に向き合っていれば後からついてきます。自分の中の「やってみたい」を信じた方が、きっと楽しい場所にたどり着けると思います。
小巻さんのお話で印象に残ったのは、「決まった業務がない」という言葉でした。見積もりも、イベントの企画も、インターンの立ち上げも、すべて「会社のためにやりたい」と手を挙げ、社長が背中を押したことの積み重ね。それがこの会社の風通しの正体なのだと思います。
そして「50年、100年続く会社にする」という目標。「向き不向きより、やりたい気持ちを優先して」というメッセージは、田坪社長の「緊張でガチガチだった子が今は売上ナンバーワン」という話と、別の角度から同じことを語っていました。